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日本計量新報 2008年7月27日 (2734号)

騒がれる地球環境を題材に人が生きていく道筋を考える

4年前までガソリン価格は100円であった。それが現在は180円を超えるようになり、間もなく200円に達する。石油需要の増大に途上国の増産が追いつかなかったり供給抑制があったりする結果そのようになるというのが、関係する国際機関の見方である。4年間で石油需要がこのように変わることには疑問をもたなくてはならないし、事情通は、希少金属などを含めた資源関係に投機資金が流れていることで起きている現象であるとも説く。
 石油価格が大きく上昇すると、それまで採算にのらなかった不良油田などからの採掘が始まり、同時に石油と資源として共通性をもつ石炭の掘り出しも行われる。石油やその他の資源の需給関係の変動は時間の経過によって落ち着き場所が見いだされ、新たな均衡が実現することは間違いない。とはいえ、急激な石油価格ほか希少金属や資源の値上がりは、経済と人の生活を混乱させる。
 世界がどのように見えているかということで想起させられるのは、フィリピンのルバング島で終戦後30年以上も戦闘を続けた小野田寛カ少尉のことである。「必ず迎えに行く」という命令者の言葉に従って、米軍のルバング島侵攻との戦闘のあと、密林に潜んで日本軍の反撃のために島の状況を偵察しつづけていたのである。戦闘意欲旺盛で情報将校でもあったために、戦争が終結したという知らせも謀略と逆読みしていたが、小野田少尉を探しに来た鈴木という青年と邂逅し、さらに「戦闘をやめることは命令者の谷口少佐の指示がなければできない」として、その手続きを経た後、ようやく戦闘を解除したのであった。小野田少尉は捜索隊がおいていった新聞を読んでいたが、終戦前後から縮刷版を読むことができたならば終戦を納得したはずだと述べている。断片的な情報だったためにそれを謀略と考えたのだという。途中からはトランジスタラジオと電池を手に入れていて戦後世界のようすを知っていたが、その戦後復興は大東亜共栄圏の実現の過程であると考えていた。密林生活を抜け出した投降者の情報によって小野田寛カ少尉のことは日本国政府の関係機関もよく知っていて、小野田少尉の兄なども密林のそばまで行って何度も呼びかけをしていたにもかかわらず、それさえも謀略と考えてこれに応じなかったのだから、小野田寛カ少尉は立派な軍人であった。
 先の大戦で敗れるまで、世界は帝国主義が渦巻く状況にあり、日本は「鬼畜英米撃ちてし止まん」「最後の一国民が倒れるまで、一億総玉砕」を唱える軍国主義が横溢していた。軍人が大政翼賛会のような形で政治を牛耳り天皇をも誤魔化して、中国での戦争を始め、アメリカとの戦争が避けられなくなると真珠湾に奇襲攻撃をかけて全面戦争に突入した。上級の軍人により軍人たちの利益を増大させる行動様式ができあがっていたために、アメリカと戦争しても勝ち目がないということがある程度わかっていたにも関わらず戦局を推し進めたのは、間違った世界観によるものであった。ルバング島で米軍の攻撃を受けた小野田寛カ少尉は、一人の兵士めがけて機銃や迫撃砲だけではなく艦砲射撃をする米軍の物資に対する考え方に驚愕したという。日本とアメリカの基礎能力の差は、軍人や政府職員ならわかっていることだったから、山本五十六元帥も「少しの間だけは戦ってみせる」と述べて指揮したのであった。
 石油がなくなるという状況の一方で、石油を燃やせば炭酸ガスが増え、それが成層圏に溜まって地表の温度が上昇するから駄目だと、石油など化石燃料の使用を抑制する動きがある。ある地方公共団体はコンビニエンスストアなどの夜間営業を自粛することを通じて炭酸ガス排出を削減するということを打ち出している。しかし、発電と電気の供給は夜間に出力を下げても昼と変わらない程度の電力を供給しているのだから、夜間営業を削減したとしても炭酸ガスの排出量抑制にはつながらない。産業構造のこと、都市型生活のこと、プラチックは石油資源の変形であること、農産物の温室栽培には石油が必要なこと。そうしたことの総合によって石油など化石燃料・資源を大量に使っていることを理解し、総合的な対応をすることが求められているのだ。
 ラジオのスピーカーを設置する作業を命じられた人が、電気信号を送る電線(リード線)をただの紐と同じように考えて、プラスとマイナスの電極の両方に被覆を剥かないで結んでいたという事例の紹介があった。その人は名の知れた大学の卒業生であるというから、日本人の科学知識の欠落に驚かされる。高等教育修了者が多くなっているにもかかわらず、中学校程度の知識すらまともに身につけていない人々がほとんどなのだ。
 国の機関に勤める公務員にしても地方公共団体の職員にしても、その知識の程度は大したことはない。日本人の知識の度合いをアメリカや中国その他の国々の優秀者と比較すると、日本人のそれは随分と低いという資料がある。大したことがない成績優秀者が自らを「エリート」と考えて高慢になって国や地方公共団体の政策決定をしていけば、結果はどうなるのか。
 堺屋太一氏は、大阪万博の裏方として働き『油断』を書いた後に、通産省を去って作家生活に入った。その後、経済大臣(経済企画庁長官)になってどん底の日本経済の再生のきっかけを作った。東大経済学部卒業の堺屋太一氏ならば次官に上り詰める道筋もあったかもしれないが、席次の高い官僚が必ずしも優秀ではなく、官僚は結局は国のためにではなく自分たち自身の利益保存のためだけに行動しているのだと、氏は手厳しく指摘する。
 テレビ、ラジオ、新聞などマスコミ関係者も低下した知識しか持っていない人々で構成されている。これらマスコミ関係者の情報源は、成績「優秀」な官僚であり、記者クラブなどを通じて発表されるプレスリリースや口コミ情報だけなのだから、大平正芳総理大臣が述べたように「一億総白痴」となってしまう(白痴という表現は穏当性を欠くことだが)。
 一億総玉砕のあとに一億総白痴とならないためにも、白痴化したと思われるテレビ、ラジオ、新聞などのマスコミのニュース報道をそのままに信じ込まないで、何らかの方法で自分で調べて知ることをしなくてならないのである。
 炭酸ガスの大量排出は、エネルギーを大量に使用する産業社会がもたらしたものであり、化石燃料の大量使用と炭酸ガスの排出量はそれまでの世紀の排出量がゼロであると思わせるほどに突出するようになった。人口増加が炭酸ガス発生量にそのまま重なる。地球は暖かい季節と寒い季節を1万年ごとに繰り返してきた。太陽を回る軌道が1万年に1度の割合で遠くなってこれに対応して氷河期になる。いまはその入り口に相当するようだが、このことはおくとしても、地球の表面温度は上昇傾向にある。その原因が何であって、人がこれに対してできることは何であるのか。学術会議など、態度があまりよくわからないままテレビとラジオが一部の学者を連れ出して危機を伝えるのに、国民は同調する。
 チリ領イースター島では、人口が増えるにしたがって椰子の森が伐採されたために、食料を争って起きた部族間抗争によってモアイ像が倒され、栄えた文明も消えたといわれている。これを教訓とすると、人は地球に暮らすための森や水との量的に適正な関係を知り、行動を抑制することが必要になる。
 その昔、行動の抑制は掟(おきて)や戒律によってなされていた。それが機能しないところでは、人は欲望のままに行動し、~の怒りに触れて大洪水に遭遇することになって箱船に乗ったものだけが生き残る。


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