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2019新春トップインタビュー

長野計器株式会社 佐藤正継社長、依田恵夫会長に聞く 

新しい柱をつくって飛躍はかる

聞き手は高松宏之編集部長

日本計量新報 2019年1月1日 (3221号)14〜15面掲載

新しい柱をつくって飛躍はかる

◎過去最高の業績に

 


――最初に、昨年就任されました佐藤正継代表取締役社長から、自己紹介を兼ねてお話しいただければ。

佐藤正継社長 簡単に自己紹介をさせていただきます。私は1954(昭和29)年5月生まれの現在64歳です。1973(昭和48)年に長野計器に入社し、約30年間は購買を担当しました。生産管理に従事した後、工場長に就任、生産全般を管理してきました。ものづくりの分野を歩いてきたことになります。
 生まれも育ちも長野県の佐久です。これまでは長野県の上田地区の勤務でしたから趣味と実益と健康管理も兼ねて、稲を育てたり野菜を作ったりと趣味の農業もやっていました。これからは少し難しくなるかもしれません。
 2018年6月の株主総会と取締役会の議決を経て社長に就任しました。まだまだ右も左も分からない部分も多く、代表取締役会長に就任した依田前社長と2人体制で経営の舵を取っていくこととしました。

●過去最高の業績


佐藤正継社長
 会社の業績ですが、2018年3月期の決算では、おかげさまで過去最高の業績になりました。
 2018年の11月9日に2019年3月期の第2四半期決算を発表いたしました。こちらについても前年同期比で増収増益となり、過去最高となりました。第2四半期の売上高は266億8300万円(10・1%増)、営業利益は17億8600万円(26・9%増)、経常利益は17億9000万円(19・7%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益は13億2100万円(55・5%増)でした。

●計画通り右肩上がりにしたい

前年度の業績は当初計画より大幅なプラスとなりました。今年度の上期は、利益面において当初の計画を上回る形で推移しています。この要因は、特殊な分野での計画以上の受注、生産、出荷ができたことにあります。
 従って、下期はこの予想以上だった部分を除外して、事業計画通りに全体で右肩上がりにしていきたいと考えています。
 2019年3月期の通期予想は、売上高533億8000万円(5・8%増)、営業利益32億2000万円(5・3%減)、経常利益32億円(11・1%減)、親会社株主に帰属する当期純利益21億2000万円(24・8%減)です。

依田恵夫会長 下期は懸念材料もあります。欧州では景気拡大が継続しているものの成長率は低下しており、輸出の回復ペースも緩やかになっています。中国では消費が堅調ですが、輸出の鈍化等により景気は減速傾向となっており、また米中貿易摩擦の激化による不確実性が懸念されます。
 先行きはなかなか不透明ですが、当社は1ドル105円、1ユーロ130円で計画していますから、現時点ではドルがこれより円安に推移しているため、多少の余裕はある状況です。このままアメリカの景気が持続してくれればよいと思っています。国内市場も緩やかでも回復基調を維持してほしいですね。


■これからが正念場

佐藤正継社長 このような状況の中で、計画通りの事業の遂行を目指して頑張っています。これからが私にとっての正念場だと思っています。下期を、計画通りに事業を遂行すると同時に、来期以降、どう舵を取っていくかが私に課せられたテーマになります。

◎3つのテーマを推進


佐藤正継社長
 今期は3つのテーマを掲げて、それに向かって進もうとしています。

●工場のIoT化

第1のテーマは、工場のIoT化です。
 改善活動やものづくりの効率化を推進するために、圧力計や圧力センサの組立ラインにおいて、当社独自のIoTを導入した製品づくりに取り組んでいきます。
 現在はモデル製造ラインを作って、そのラインが稼働し始めたところです。
 昨年の10月に軽井沢で開催した会社設立70周年『感謝の集い』で、会場と工場を結び、どこでも監視・どこでも通信ができるというIoT技術を活用した製品の自動組立ラインや最新技術の紹介をさせていただきました。
 依田会長の長年の思いでもありますが、将来は、圧力計測業界においてAIやIoTを使って生産の完全自動化を実現したいと考えています。IoTを使って見える化をし、メンテナンスなどもコントロールし、製品や部品の監視、生産製品の歩留まりの記録、そして効率よく生産するためにAIを活用するといったことです。このようなすべての分野でAIやIoTを取り込んでいきたいという思いでテーマの1つとしています。
 この点で刺激を受けているのが、長野計器がドイツに設立した合弁会社の工場の自動化ラインです。これはドイツのインダストリー4・0の発想をもとにつくったラインです。
 こういう刺激も受けながら、工場のIoT化を推進していきます。

●事業の第3の柱を作る

第2のテーマは、第3の柱となる事業を創ることです。
 設立から70年の区切りを迎え、これからの20年、30年へ向けて、新しい事業の柱を確立していかなくてはなりません。
 長野計器にとって、事業における第1の柱は圧力計です。第2の柱として圧力センサがあります。これはおかげさまで100億円以上の事業になりました。
 今後の更なる成長の為には、どうしても第3の柱を創りあげなければならないということで、さまざまな新製品の開発を進めています。これらを評価して、どれを第3の柱とするかということを見極めたいと思っています。

■連結で530億円以上の売上をめざす

数字的にも指針であった3カ年計画のなかで、今期は単体で250億円、連結で530億円を超えるところまで持っていきたいと考えています。
 この目標はだいぶ見えてきていますので、第3の柱を確立して事業を推進していくことにより、さらに200〜300億円を売上に乗せていくなかで、将来的には、連結で売上1000億円を実現していきたいと思っています。

●グローバル対応のさらなる推進

第3のテーマは、グローバル対応の推進です。
 圧力計や圧力センサの分野においては、国内における当社のシェアが相当高いなかでは、さらなる国内での売上アップを図っていくことはなかなか難しい状況にあります。
 ですから、現在もそうですが、今後はより一層グローバル対応を進め、世界を牽引する意気込みで事業に取り組んでいく必要があります。

■人材育成を

しかし、それも一朝一夕でできるわけではありません。当たり前のことですが、まずは人材を育成する必要があります。
 ワールドワイドに働けるようになるため、国内外の社員の人事交流を更に活発にして、人材を育てていきます。

■海外子会社と連携強化

例えば、海外子会社であるアメリカのアッシュクロフト社は世界に拠点があるので、同社との連携を強化して、海外売上を伸ばしていきます。
 これらは短期的に達成できるものではありませんので、長期的な視点で取り組んでいきます。
 アメリカやドイツの子会社とは、定期的に技術者同士のコミュニケーションを図りながら、それぞれの工場でどのような製品づくりを目指しているのかなどを討議することにより、シナジー効果を高めています。同じ製品を日本、アメリカ、ドイツの3カ所で作るようなことはなくしていきたいと思っています。

■今期は計画通りに遂行

同時に足元をきちんと見なくてはなりませんから、先ほど依田会長も申しましたが、まずは今期の事業を計画通りに遂行していきます。

■ロボット導入

依田恵夫会長 人材育成とも関連しますが、現在は少人数で成果をあげることが要請されているわけです。さきほど社長が工場のIoT化の話をしましたが、その一環としてロボットの導入があります。ロボットを導入することによって生産性を2倍、3倍にすることができますから、ロボット導入はさらに推進していきます。
佐藤正継社長 IoTを導入するには順番があります。まずは現状の見える化です。そのなかでどこに手を入れればさらに改善できるのかを判断します。改善活動ですね。この改善活動と並行して設備の保守・メンテナンスがありますが、これがけっこう大変です。これに力を入れます。
 その次のステップとして、どういうふうに改善したらもっと効率がよくなるか、人がやっている仕事を機械に置き換えていくことも含めて、そういう課題の解決にAIを使っていきます。
 現状はまだまだ道半ばですがそこまでもっていきます。
依田恵夫会長 そうなると、いわゆる職人技といわれているものを機械でやらせるということになりますから、そのためには膨大なデータの収集が必要になります。蓄積が重要ですから、まだまだ時間はかかります。

◎長野計器の理念は「安全・安心・信頼」

−−現在、データの不正や検査の問題などが各分野で頻出していますが。

●安全な製品をつくり、安心して使ってもらう

佐藤正継社長 長野計器のポリシーの1つは「安心」です。
 まずお客様にとって、世の中にとって安全・安心な製品を長野計器は生産、提供し続けます。
 ときどき工場で爆発事故があったというようなニュースが入ってきますね。その原因分析のなかで、設備の老朽化はもちろんですが、匠の技を持った人材がいなくなっていることもその一因としてあげられていました。
 圧力計を例にとると、製品の品質よりもコストに走りすぎてしまうことがあると思います。コスト削減ばかりに目がいってしまう。もちろん価格競争を視野に入れた製品つくりは必要ですが、少なくとも、長野計器でつくった製品をお客様に安心して使っていただくというブランドが必要です。
 「安全」「安心」「信頼」という理念のもとで、長野計器は製品をつくっています。長野計器は、「安全・安心」な製品を提供するとともに、環境の基本理念である「環境問題は、人類共通の最重要課題の1つである」との認識のもとに、企業活動と地球環境との調和をはかり、自然や地域社会と共存する信頼ある企業を目指しています。

●基本をしっかりやる

当社もクレームゼロを目指していますが、なかなか簡単にはいきません。クレームは起こってしまった時に真摯に対応できるかが肝要です。
 不正問題が起きる原因の1つに、会社のなかで自由にものが言える雰囲気・環境がつくられているかどうかにあると考えています。
 トラブルが起きる部分に関しての改善活動も重要です。
 また、安心できる製品をつくるためには、部品段階からの検査と不良原因のフィードバックや修正などの必要な工程を絶対に飛ばさない姿勢が大事です。
 要は、基本をしっかりやるということです。

■圧力計は長野計器が背負う

依田恵夫会長 他社は分かりませんが、長野計器はこの基本をしっかりやるというやり方でやっていくということです。AIなどを活用してコストは下げますが、しかし、品質を落とすことはしません。
 当社は2017年に双葉測器製作所を買収しました。この会社が得意としている重錘式圧力基準器は、正確な圧力計を製作するうえで基本となるものです。これは長野計器が守っていかなくてはなりません。
 そういうことでいうと、圧力が1GPa級(拡張不確かさ430ppmレベル)の高圧標準装置は産総研と長野計器にしかありません。つまり、圧力計は長野計器が背負っていくのだという気概を持って事業を進めています。

■情報をオープンに

佐藤正継社長 従業員にまで長野計器の経営状況をできるだけオープンにしています。こういうふうにすることにより、社員の愛社精神も自然に芽生えてきます。そこから、会社を発展させるためにはもっとこうしたいという発想も生まれてきます。

◎製品開発とコスト削減

−−先ほども話がでましたが、注目される開発分野などをご紹介ください。

●無線でデータを共有

佐藤正継社長 70周年記念の「感謝の集い」で「そして未来へ」ということで紹介したのですが、IoT社会に対応した長野計器の製品をつくるということで、計測機器(圧力計や圧力センサ他)のデータを無線でやりとりできる製品を開発しています。将来的には長野計器の製品の多くに無線やRFID機能をつけたいですね。すでに具体的に発表している製品もあります。

■FBG光ファイバーセンサシステム

長野計器では、FBGと呼ばれる光ファイバセンサを利用した歪みや加速度を計測する技術を開発し、橋梁などの公共インフラ構造物の健全度診断システムに利用できる技術を開発してきました。このシステムを無線ネットワークに接続すれば、離れたところからリアルタイムで、現場の状況をモニタリングし分析することができ、自然災害を未然に防いだり二次災害を最小限に抑えるために大きな役割を果たします。
 将来このようなシステムを構築できる総合的な製品が、長野計器の製品のなかで大きなウエイトを占めてきます。

●新製品の開発

景気に左右されないための方策の1つとして新製品開発があります。そのためにも、迅速かつ付加価値が高い新製品の投入が求められます。
 今も技術陣は開発に邁進しています。いろいろな分野へ新製品を投入していく計画です。

■海外規格対応の新製品開発

グローバル化ということで規格の統一が進みつつありますが、それでも海外には、さまざまな独自規格が存在します。当社は、これらの海外規格にも対応した新製品を開発していきます。
 アメリカ、ドイツの子会社とのシナジー効果を発揮して、世界戦略として進めていきます。どこででも作ってどこででも売るということです。
依田恵夫会長 無線発信機能付の製品が増えれば、圧力計や圧力センサの使用範囲は限りなく増えていきます。監視などにおいても、無人化、設置場所の拡大、リアルタイムのデータ収集など、利点がいっぺんに拡大しますから。

−−今紹介されたようなことが第3の柱になってくるのでしょうか。

 佐藤正継社長 そうです。第3の柱の最有力な製品群になりますね。最低でも柱という以上は100億円以上の売上を出さなくてはなりません。

■印刷化した歪ゲージや高精度センサの開発

依田恵夫会長 少し付け加えますと、長野計器は今、圧力や歪み、力を検出する素子として、印刷化した歪ゲージの開発にも取り組んでいます。これが成功すれば、低コストで使いやすい歪ゲージになります。
 また、AIやロボット化が進めば、圧力センサなどもさらに高精度なものが要求されるようになります。センサの高精度化も追求していきます。
佐藤正継社長 今年は、従来より一桁精度が上がった圧力センサを出す計画です。
 印刷化した歪ゲージは、蒸着に比べるとコストが削減できますから、今後もコスト削減と精度を追求した製品づくりを進めていきます。もちろん、安全・安心はあたりまえのことです。

●人員を増やさずロボット化やAI活用で対応

−−人材の採用についてはいかがですか。
依田恵夫会長 採用はいつもと同じです。海外、日本を問わずに優秀な人材に来て欲しいですが、数としてはそんなには増やしません。人員をあまり増やさずに事業を拡大・発展させていくためには、ロボット化の推進による自動化や、AIの活用で対応していきます。

−−ありがとうございました。

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